AIと映画祭:文化の交差点で見えた未来

こんにちは監督の中島良です。
フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭(6月)と韓国のプチョン国際ファンタスティック映画祭(7月)のAIカンファレンスにも参加しました。東西の生成AIに対する興味深い視点の違いを目の当たりにしました。

フランスと韓国:AIに対する対照的な姿勢

フランスでは、伝統的な手作業の技術に対する深い尊敬の念が根付いています。そのため、画像生成AIは職人や芸術家の仕事を奪うだけではなく、世界中が積み重ねてきた文化遺産を剽窃しているのではないか、という懸念の声が多く聞かれました。映画祭のパーティーでの会話でも、AIに対して懐疑的な意見が目立ちました。
一方、韓国では異なる見方が主流でした。
生成AIで制作した映像のコンペ部門やワークショップ、AIカンファレンスも数日間にわたって開かれ、プロフェッショナルな映画関係者たちが実際にAIを触って、その使い方や可能性を見出そうとしていました。
AI部門のフェスティバルプログラマーの方とお話しをしたところ、韓国政府は小規模プロダクションや個人クリエイターにとって、AIは創造性を飛躍的に高めるツールとして捉えられており、その後押しや普及をしていく方針であるとのこと。
70〜80代くらいの映画祭役員の方からも、死美におけるAIの使い方を聞かれましたが具体的な質問をされ、とても印象に残っています。
この対照的な反応は、文化や社会背景によってテクノロジーの受容度が大きく異なることを示しています。

アヌシーとプチョン映画祭での反響

アヌシー映画祭の上映では生成AIで制作された短編作品が観客からのブーイングを受けたという話も聞きました。幸いなことに私たちの映画は上映後に拍手が起き、観客の方からも映画面白かったよと声をかけていただけました。
受け入れられた理由としては、私たちの作品はモーションキャプチャーと3Dアニメーションで制作しており、生成AIは最後の仕上げの段階で使っているだけです。人間のパフォーマンスやクリエイティビティーが元に制作されていることが観客にも伝わり、作品として純粋に楽しんでもらえたのだと思います。
韓国でも同様で、ゾンビ映画の中に哲学的・芸術的な表現があると評価いただきました。

香港クリエイターのハイブリッド表現

ちなみに僕が見た生成AIの使い方として理想的だったのは、アヌシーのフィルムマーケットで展示をしていた香港のクリエイターの人たちです。彼らは2D作画のアニメーションと生成AIによって実写をアニメスタイルに加工したハイブリッドな表現をしていました。
まずストーリーは香港の屋台が舞台で、料理人と美味しいご飯、様々な人生を生きてきた人たちの心の交流です。
キャラクターの表現は作画によってケレンみたっぷりに描き、作画では工数が多く表現が難しい箇所にAIが使われています。例えば、調理の過程や美味しそうな食べ物を箸で掴む表現、スプーンで掬って、料理が美味しそうな崩れ方をするのを実写映像を生成AIを使ってアニメスタイルに変換していました。
私も料理映像のスタイル変換を試しているのですが難しいことで、彼からAIのコツを聞けたのでよかったです。

AIはあなたの鏡である

私自身、日々AIと対話を重ねる中で、AIをポケモンのような人格を持った相棒のように感じています。AIとの試行錯誤を通じて、自分が作りたい映像の本質を見出し、それを具現化していくプロセスは非常に刺激的です。

プチョン国際ファンタスティック映画祭のセレモニーで「AIはあなたの鏡である」というコンセプトに出会い、深く共感しました。確かに、AIには文化を脅かす危険性と豊かにする可能性の両面があります。だからこそ、慎重に、そして賢明に活用していく必要があるのです。

今後は、AIを人間のクリエイティビティを奪うものではなく、それをアシストするツールとして捉え、私の生成AI活用の取り組みを広くシェアしていきたいと考えています。テクノロジーと文化の融合が生み出す新たな可能性に、大いに期待しています。